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PCB

No. 063 update 2004.03.15 PDF版(141 kbyte)

環境(第11回)

PCB

 今回は「PCB」について考えてみたいと思います.

 ポリ塩化ビフェニル(PCB)は,燃性で安定,絶縁性・電気的特性が良好,化学的に安定で耐酸・アルカリ性が良好等の性質から,その7割は,火災の危険の多い場所―例えば,発電所や車両(地下鉄・新幹線)・船舶・鉱山・地下設備(トンネル等)の電気設備で「燃えない」絶縁油として利用されました.

 PCBを利用することで病院,地下施設,トンネル,船などの電気設備からの火災が減少し,安全性が大きく改善されるなど開発当初は,「フロン」と同様に「夢の化学物質」でした.

PCBの総生産量と使用量(単位:トン)

   生産量 使用量
             
1954  200    200
1955  450    450
1956  500    500
1957  870    870       
1958  880    880
1959  1,260   1,260
1960  1,640   1,640
1961  2,220   2,220
1962  2,190   2,190
1963  1,810   1,810
1964  2,670   2,670
1965  3,000   3,000
1966  4,410   4,410
1967  4,480   4,480
1968  5,130   5,130
1969  7,730   7,730
1970  11,110  11,110
1971  6,780   6,780
1972  1,457   1,457

計    58,787  58,787

(出典:http://PCB.jp/table.html)
(出所:PCBによる環境汚染とその対策昭和47年6月(通商産業省公害保安局編)』東京都公害局発行(1972))

PCBを原料とする製品別の総使用量(単位:トン)

    絶縁油 熱媒体  感圧紙

1954  200   0
1955  430     20
1956  430     50
1957  760     80
1958  740     100
1959  1,060   120
1960  1,320   170
1961  1,860   180
1962  1,640   240   10
1963  1,270   240   30
1964  1,920   400   100
1965  1,980   450   170
1966  2,600   660   300
1967  2,370   730   390
1968  2,830   720   780
1969  4,220   1,290  1,300
1970  5,950   1,890  1,920
1971  4,560   1,160  350
1972  1,016   35     0

計   37,156  8,585  2,910

(出典:http://PCB.jp/table.html)
(出所:PCBによる環境汚染とその対策昭和47年6月(通商産業省公害保安局編)』東京都公害局発行(1972))


 熱媒体として使用していたPCBに起因する「カネミ油症事件」をきっかけにその毒性が問題となり,肝機能障害,発癌性など人体に対する影響も指摘され,1972年に行政指導で製造が禁止されました.

 しかし,化学的安定性のため分解が容易ではなく,処理が容易ではないという問題があります.国内でも様々な技術導入や技術開発が行われており,技術的にはかなり進展しています.

ちなみに処理実績としては以下のようなものがあります(処理量等は一部未確認です).

事業者名     方法   期間    処理量 

鐘淵化学工業(株) 焼却処理 1986-1989 5,500トン
住友電気工業(株) 化学処理 1999-2000 低濃度16KL,高濃度170L
(株)荏原製作所  化学処理 2000-   600kg 
日本曹達(株)   化学処理 2000-   350kg
古河電気工業(株) 化学処理 2001-2002 高濃度1130L

 代表的な処理方法は焼却処理で,国内でも鐘淵化学工業(株)の実績があります.しかし,海外でも実績の多い(恐らく処理費用の面でも有利な),この焼却処理は1989年以降も電気絶縁物処理協会などが40回近く処理の実現を目指した提案を行ってきましたが,地域の反対で継続的な処理は実現されませんでした.

 地域が不安を感じるのは当然のことで,当事者だけではなく,監督官庁,行政機関を含む関係者がどの程度真剣に考え,説明を行うかが重要となると考えます.もし1990年以降も焼却処理が継続できていれば国内の液状PCBの大部分の処理は完了し,現在抱えている保管のリスクは回避できたかもしれません.


 一方,海外ではEU諸国は,遅くとも2010年までに処理が完了する予定となっています.なお,高温焼却法による処理が大半を占めています.フランスは他国のPCBについても処理を実施しています.

アメリカ   焼却処理中心から,最近は化学処理が普及
イギリス   1999年末までに処理終了
フランス   遅くとも2010年までに処理・処分終了予定
ドイツ    遅くとも2010年までに処理・処分終了予定
スウェーデン 焼却処理を実施中


 国内と海外の状況を比較すると,日本は先行きが極めて不透明と言わざるを得ません.国内にある6万トン近い在庫のうち,既に処理が終了したのは10%程度に過ぎません.残りは「保管」という名目で扱われており,最終的に全てが処理できるような道筋はほとんど見えていないように思います.

 日本では処理検討委員会が処理基準の強化(海外の処理基準よりも10倍から100倍厳しい)や処理技術の再評価を行ってきました.この結果,処理費用も膨大で体力のある事業者以外は実質処理が困難な状況にあります.

 確かに「何か」を実施するときは,何らかの「リスク」が伴います.先の鐘淵化学工業での焼却処理は「リスク」を極めて小さくすることはできてもゼロにすることはできません.このような制約は基本的に全ての処理方法に共通しています.

 「リスク」がゼロでない以上,「何か」が起これば責任問題になります.国や行政が「処理」の後押しをして実施すれば当事者以外にも責任は及びます.当事者以外の責任問題の生じない方法が「保管」という方法なのではないか,と思えてなりません.

 これまでの「先送り」体質を脱却し,PCB問題については,「国」と「行政」の主導で処理・処分スケジュールを含むマスタープランを策定し,国民に全ての情報を開示し十分な説明を行った上で,次世代の負担を軽くできる取組みが一日も早く始まることを期待したいと思います.


 私自身,この種の問題を自らの問題として背景を含み十分に理解した上で,自分なりの判断の基準を確立しておく必要があると感じています.読者の皆様も,是非ご自身で関係情報を収集し,ご自身のお考えに基づく判断基準をお持ちいただければ大変嬉しく思います.

[文責:スリー・アール 菅井弘]

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