今回は,「蛍光灯」のリサイクルについて考えてみたいと思います. 「蛍光灯」が何故リサイクルの対象となっているかの理由は後ほど述べることとして,まず国内でのどのくらいの本数の「蛍光灯」が使用されているかを調べることにしました.具体的には日本電球工業会のホームページに掲載されている以下の電球類の年間生産・販売統計(単位:個数)を参考にしました. 1998 1999 2000 2001 2002 白熱電球 一般照明用 134,381 131,966 128,683 121,992 115,781 自動車用 1,161,487 1,152,723 1,164,068 973,207 950,297 ハロゲン電球 56,457 56,697 58,463 48,474 42,237 表示用小型電球 491,794 402,573 378,689 296,144 - その他 183,910 200,166 206,776 157,629 471,885小計 2,028,029 1,944,125 1,936,679 1,597,446 1,580,200放電ランプ 蛍光ランプ 448,343 477,207 539,989 534,475 595,244 HIDランプ(注) 7,569 6,547 6,524 5,731 5,940 その他 305,229 299,473 341,406 252,198 243,658小計 761,141 783,227 887,919 792,404 844,842合計 2,789,170 2,727,352 2,824,598 2,389,850 2,425,042(出典:http://www.jelma.or.jp/about/pdf/statistics01.pdf) (注)HIDランプ:高輝度放電灯と呼ばれるもので,長寿命,高効率で大規模照明用として利用されています. 上記データによると「蛍光灯(ランプ)」の年間生産数は増加傾向にあり,1998年時点では約4.5億個であったものが2002年には約6億個となっています. ところで,電球は大きく「白熱電球」と「放電ランプ」に分類されています.「蛍光灯」は「放電ランプ」の一種という位置づけです. 「白熱電球」の明かりは,「蛍光灯」の明かりと比べて黄色みがかった色です.「白熱電球」では光を電気抵抗の大きい「フィラメント」部分で発生する熱から光を得ています.ご存知のとおり,「白熱電球」は1879年にエジソンによって発明されました.当時はフィラメントに竹を蒸し焼きにした炭素線を使用していたとのことですが,現在はタングステンという金属が使用されています. 一方「蛍光灯」は,ランプ内部で紫外線を発生させ,それを可視光に変換することで光を得ています.「蛍光灯」は,管内面に蛍光物質を塗布した細長いガラス管(最近では棒状,環状以外に球状等とさまざまな形のものが販売されています)です. 管内部には水銀蒸気が封入され,管両端には放電電極が取り付けられています.電極に電流が流れて電圧がかかると,両端のフィラメントが加熱され,電子が放出されます. フィラメントから放出された電子は,ガラス管内の水銀蒸気,つまり水銀原子と衝突し励起状態(興奮状態に喩えることができます)となります.励起状態の水銀原子は不安定ですので,もとの基底状態(冷静な状態に喩えることができます)に戻ろうとします.この異なる状態間のエネルギー差が紫外線と呼ばれる光となって放出されます. 光は波長により人の目に見えるものと見えないものがあり,日常生活で目に見える光を「可視光」と呼んでいます.この「可視光」よりも少しだけ波長が短く,目で見ることのできない光が「紫外線」です. ちなみにちょっと波長が長くて目で見ることのできない光は「赤外線」と呼ばれています.紫外線は人間の目に見えない光なので,蛍光物質に照射して人の目に見える光(可視光)に変換します. 電球の中でも「蛍光灯」が問題となっているのは,使用済み蛍光灯(廃蛍光灯)内には極めて微量ですが,水銀が含まれていることによります.このような廃蛍光灯の発生本数は一般的に年間約4億本と言われています. 先述の生産本数との差は輸出入分等を考慮してもかなり大きな開きとなっているのは,恐らくは生産時点と廃蛍光灯発生時点で時間的なズレがあるためと推定されます.この場合には近い将来,廃蛍光灯の発生本数はかなり増えることが予想されます. 廃蛍光灯1本当りに含まれる水銀量は10〜20mg程度ですが,例えば4億本(重量換算で約60,000トン)の廃蛍光灯全体を考えると年間4〜8トンの水銀量が廃棄されることになります. これらの水銀は無機水銀で,人体への影響は少ないと言われています(人が口に入れることのある体温計でも使用されています)が,環境中へ廃棄された無機水銀が様々な有機物との反応で有機水銀に変化した場合にはかなり問題となります.ちなみに有機水銀は水俣病(熊本県)や新潟水俣病(新潟県)の原因となった物質です.すなわち,蛍光灯管内に含まれた水銀が有機水銀へと変化する可能性があることが「蛍光灯」リサイクルが進められている背景となっています.ところで,廃蛍光灯のリサイクル事業は以下のような事業者により行われています.野村興産イトムカ鉱業所(北海道)JFE環境(神奈川県) 処理能力 5,000トン/年 神鋼パンテック(兵庫県)ヤシキトリニケンス(長崎県) ジェイリラッツ(福岡県) 処理能力 18.3トン/日 現在のリサイクル率は約10%程度と報告されていますが,正確な数値は今ひとつわかりません.リサイクルされていない廃蛍光灯がどこにいっているのかも良くわかりませんが,廃棄物処分場で埋設されている可能性が高いものと思います.このような現状を踏まえると,リサイクル率の向上は大きな課題であることは間違いありません. ところで「白熱電球」と「蛍光灯」の選択の問題ですが,省エネルギーの観点からは「蛍光灯」が有利と言われています.実際に両者を比べると,「蛍光灯」の方が「白熱電球」より明るく感じるといわれています.しかし照度では差はありません. 文明度では「蛍光灯」が勝り,文化度では「白熱灯」が勝るということかもしれません.何故なら少なくとも「白熱灯」は「蛍光灯」のような水銀が含まれておらず,リサイクルを前提にする使用が前提とはなっていないためです. 家庭における照明の選択は個人の趣味で行うことができますが,経済性,効率優先のオフィスではなかなか「白熱灯」の利用は難しい状況かもしれません.一方,効率よりも雰囲気が大切な店舗用はそれなりに身近でも利用されているようです. さらなる展開として,「照明用発光ダイオード(LED)」が「蛍光灯」にかわる技術として広がることも期待されます.最大の利点はエネルギー効率の高さと水銀を利用していない点にあります.個人的には文明度の高い照明として「照明用LED」の将来に期待しますが,文化度の面からは「白熱灯」と「まめな消灯」も捨てがたいと感じています. |